ラース・フォン・トリアー監督作「ニンフォマニアック Vol.2」("Nymphomaniac: Vol. II" : 2013)[DVD]

ある色情狂の女の、性欲に翻弄される半生を描くドラマ作品。二部構成の後篇。

ジェロームと再会を果たしたジョーはセックスに興じるが、突如、不感症に陥ってしまう。ジョーの話は一旦、過去に遡り、12歳の時に友達と行った遠足での出来事に及ぶ。ジョーは1人で丘に横たわり、何もせずにオーガズムに至る。ジョーはその時2人の女の幻影を見たと、セリグマンに語る。セリグマンはそれが史上最も悪名高き色情狂、クラウディウス皇妃のヴァレリア・メッサリナと、大淫婦バビロンだと推察し、「山上でのイエスの変容」の冒涜的表現だと指摘する。性器が麻痺し、オーガズムを失った事はジョーにとって耐え難い苦痛だったが、セリグマンがそれを真剣に考えようとしない事に、ジョーは苛立つ。数学的な事象にのみ興奮し、卑猥な話に興奮しないセリグマンを、ジョーは童貞だと察知する。セリグマンは自らが童貞である事を認め、自身を性欲の無い人間だと打ち明ける。その上で、性的に白紙だからこそ、先入観を持たず、ジョーを色眼鏡で観る事も無いと告げる。ジョーはロシア正教のイコンの絵に目を留める。それは東方教会で用いられる聖母の絵だった。セリグマンは、西方教会は苦しみの教会、東方教会は幸福の教会という持論を述べる。ローマから東へ向かう旅は、罪の意識や苦しみから逃れ、幸福の光を目指す事だという。ジョーはその話を次の話のきっかけとする。

第6章「東方教会と西方教会(サイレント・ダック)」

その後、いくら努力をしても性感は戻らなかったが、その一方でジョーは安らぎと居心地の良さを求める様になり、ジェロームと同棲し、程なくして妊娠する。性感に影響する事を懸念し、出産は帝王切開だった。生まれた男の子にはマルセルと名付けたが、ジョーは愛が報われないと感じる。ジョーは性感を喪った後も、より貪欲にジェロームの体を求めるが、ジェロームはジョーを満足させられない事に落胆し、他の男とセックスする用に勧める。ジョーはピアノ講師に扮し、男漁りを始めるが、ジェロームのフラストレーションは溜まっていく。話は3年先へ進む。出張ばかりのジェロームは、帰宅すればジョーのマルセルに対する世話が不十分だと責めるようになる。それはジョーの愛人達への怒りの現れに他ならなかった。ジョーのオーガズムは更に遠のき、変化が必要だと感じたジョーは言葉の通じないニグロの兄弟との3Pを試す。兄弟はどちらがどちらの穴に入れるかで揉め、結局行為には及ばなかった。セリグマンはジョーのニグロという表現に不快感を示す。ジョーは言葉が禁止される度に民主主義の基礎から遠ざかると反論し、人間の特質は「偽善」だと主張する。更に冒険する必要性に駆られたジョーは、Kという男による暴力の刺激で、セクシャリティを取り戻すセラピーに臨む。それこそ東から西へ、キリストに対する磔に自ら向かう行為だった。Kに呼ばれるには、深夜2時~6時までの間、ただ座って待つしか無い為、ジョーはマルセルをシッターに任せ、夜な夜なKの元を訪ねる様になる。Kに命じられるまま、尻を乗馬用のムチで打たれる度に、ジョーはセクシャリティを取り戻していく。しかし、程なくしてシッターに応じてもらえなくなると、ジョーは已む無くマルセル1人を残して外出する様になる。クリスマスの夜、マルセルは1人で起き出し、寒空の下、バルコニーに出る。そこへジェロームが帰宅し、マルセルを保護する。Kの元から戻ったジョーは、ジェロームに事情を問い質される。ジェロームは、ジョーに再び外出したらマルセルと今後一生会えないと告げる。ジョーはジェロームとマルセルを振り切ると、別れを決意し、Kの元へ出かけていく。ジョーは順番を無視し、強引にKの元へ赴く。Kにクリスマスのプレゼントと称された特製のムチで尻を40回打たれ、ジョーはオーガズムへ達する。ジョーはそれ以来、マルセルとは会っていないとセリグマンに語り、衝動的にティーカップを壁に投げつける。ジェロームがマルセルを施設に預けた為、ジョーはマルセルの口座に匿名で毎月1000ポンド振り込んでいるのだった。ジョーは寝室の鏡をきっかけに、話を次に進める。

第7章「鏡」

数年後、肉体を傷付け過ぎた影響で、クリトリスから出血し始める。上司に呼び出されたジョーは、社内で男漁りをしている事を咎められ、セックス依存症患者の集会に参加し、精神分析医のカウンセリングを受ける様に命じられる。ジョーは医師に誘引を排除する様に忠告されるが、どんなに排除してもセクシャリティを除去する事はできなかった。開き直ったジョーは卑猥さを消そうとする医師に反抗し、集会と決別する。ジョーは自分には居場所が無いとセリグマンに語る。話のきっかけとなる物が尽きた時、セリグマンが物事の角度を変えてみる事を勧め、ジョーはカップを投げつけてできた紅茶のシミを銃の形に捉え直す。ワルサーPPKの形状に良く似たそのシミから、次の話へと進む。

第8章「銃」

まともな仕事に就けないと悟ったジョーは、裏社会へ足を踏み入れる。裏稼業のボスLに適正を見込まれたジョーは、Lに雇われ、借金取り立て業務を任される。ジョーは男に関する知識と性体験の多さを強みに、実績を上げていく。数年が経ち、商売が成長すると、Lはジョーに後継者を探す様に促す。親が犯罪者で、施設暮らしをする娘PをLに紹介されたジョーは、理解者を装い、Pに接近し、親しくなる。Pが成人を迎えると、ジョーは引受人となり、同居を始める。その頃、ジョーは陰部の痛みでセックスができずにおり、発熱と痙攣という禁断症状に見舞われる。Pはそんなジョーの姿を見て、抱き合い、愛撫する。程なくして、ジョーはPに親身に接してきた本当の理由を打ち明ける。Pはジョーの仕事に同行する事を希望する。債務者に銃を向け、強引に取り立て様とするPに、ジョーは銃を使わぬ様に諭し、Pから銃を取り上げる。ある時、訪れた債務者の住居がジェロームの家だと知ったジョーは、その場をPに任せる事にする。ジョーは誰も傷付けず、無理の無い返済計画を提示する様に命じる。ジョーは別れた時以来、初めてジェロームの姿を目にする。ジェロームの借金は6回に分けて返済する事になったが、Pが取り立てに向かう度にジョーの不安は募る。最後の取り立ての日、Pがキスをせず外出した事に不安を感じ、ジョーはジェロームの家に赴く。そこでジョーは、Pがジェロームと肉体関係を持っている事を知る。ジョーは衝動に駆られ、町を離れ、南へ逃げようとする。何かに呼ばれる様に山を登った先で、ジョーは強風に煽られながら佇立する一本の反骨の木を見つける。それこそジョーにとっての魂の木だった。町に戻ったジョーは、路地裏に忍び、Pとジェロームを待ち伏せる。ジョーはそこへ現れたジェロームを射殺しようと企てるが、安全装置を外していなかった為に、銃から弾は発射されず、ジョーはジェロームから痛烈な殴打を食らい倒れる。Pはジェロームを誘い、倒れたジョーの面前でセックスに及ぶ。ジェロームはジョーの処女を奪った時の様に、3+5でPを突く。その後、Pはジョーに小便をかけ、2人は去っていく。

ジョーの話が終わる頃、夜明けが訪れる。セリグマンは、ジョーが自らの罪を「夕陽に多くを求めた事」と語った事に触れ、自らの権利を求める女として、与えられた物より多くを求めたのだと述べる。男と女で立場を入れ替えれば凡庸な話が、女だからこそ特別視され、ジョーは罪の意識に苦しみ、男の様に攻撃的に振る舞う。それは性差別に対する反撃なのだとセリグマンは分析する。更に、人を殺せなかったのは偶然では無く、潜在意識下での抵抗であり、心の奥で人間の価値を湛えているからなのだと、ジョーの行為を評価する。ジョーは、魂の木の様に、どんな困難でも立ち向かい、セクシャリティを排除する決意を述べると、話した事で依存症が良く分かり、楽になったと告げ、初めての友人、セリグマンに感謝する。疲れを訴え、眠ろうとするジョーに、セリグマンはジョーが人殺しにならずに良かったと告げ、寝室を出る。しかし、セリグマンはすぐに戻ってくる。セリグマンはジョーに伸し掛かると、強引に挿入しようとする。「大勢の男とヤったくせに」と言うセリグマンに、ジョーは銃を発射し、部屋から逃げ出す。

 

後篇は前篇を圧倒する濃密さで、ジョーがそのセクシャリティに翻弄される様を描くのだが、まさかのセリグマンの童貞カミングアウトには意表を突かれた。その辺りからなんとなくオチがチラつき始めたものの、どこへ向かうか予想もできないストーリーの流れにとりあえず身を委ねてみた。6章のKによるハードな暴力描写は凄まじく、ガチで殴っている様にしか見えない程だが、シャルロット・ゲンズブール他、メジャー俳優がここまでやるって事に素直に感服してしまう。回想が現在に繋がり、辿り着いた結末はまるでコメディの様な展開だった。セリグマンとの対話を通して、長々と語られたジョーの回想は、最後の2分ほどのオチの為の、いわば前フリみたいなモノだったワケだ。童貞を拗らせたあのおっさんに、自分自身の将来の姿を見た様で僕はタヒにたくなった。しかし存分に現実逃避させてくれる非常に愉快な作品だったな。

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